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ヴェルディを創った男

2024年の年初にヴェルディクラブの「e-sports」チームのGMである片桐正大氏から連絡が入る。


「クマカン、J1開幕前に坂田さんと食事会をするので一緒にどう?」


年明けからスケジュールは結構埋まっていたが、何とか調整をし指定の日に坂田氏との会食を入れた。

坂田氏とはヴェルディ創設メンバーのお一人で、社長も歴任された「坂田信久」氏である。

御年83歳。



お会いするのは6年ぶり。

その6年前ご縁を頂いたのも前述の片桐氏からの縁。

私と同じ歳の片桐氏は、学生時代にヴェルディ坂田社長の「鞄持ち」(今でいうインターシップ)をし、その後新卒で福岡ダイエーホークスの職員として社会人キャリアをスタートさせ、その後楽天イーグルスの創設にも関わったスポーツビジネス界での実績をもつ。


スポーツ界において坂田氏の「弟子」の一人だ。


お会いした2018年、我々は翌年に迎える「東京ヴェルディ」50周年に向けて、水面下でリブランディングプロジェクトをスタートさせていた。

サッカークラブから欧州クラブから影響を受けた、日本版総合型クラブへの転換。

サッカービジネスからブランドビジネスへの転換。

その実現には、ヴェルディブランドのデザイン変更がマストであった。


私がこれまでブランドビジネスの経験で「リブランディング」おいて最も重要だと思うのは

「歴史へのリスペクト」

そしてアプローチは、ブランド資産の棚卸しとその資産を凝縮させ残し、変える部分を大胆に変えることだと思っている。


昨今のリブランディングはデザインを変えることが前提になっていたりする傾向もあるが、

変える必要のないものまで変える必要はない。

そして変えちゃいけないものが何なのか?

この目利きがディレクターの最も大事な判断とも言える。


スポーツチームは大きな「愛」で成り立っている。

創業の「愛」を後世に引き継ぐ為にはどうしても創業者に聞かなければわからない。

私は、片桐氏に「ヴェルディを創った人にお会いしたい」とお願いし会談が実現した。


正直、緊張した。

日本のプロサッカーの歴史を創り、その象徴だったブランドだ。

「おい!ブランドを変えるだと、ふざけるな!」と言われる事も想定もしていた。


リブランディングに着手する前に、すでに経営陣に対して世界のサッカークラブのデザインリサーチやデザイン傾向、総合クラブ転換に当たってのデザインシステムの導入、そしてステークホルダーへの説明プロセスなど、全部で100枚を超える資料ですでに進める合意は取れていた。

その資料を持って、まず会いに行ったのが坂田氏で、同じプレゼンを聞いてもらうつもりだった。


坂田さんへのインタビューは3時間に及んだ。

丁寧にご自身の東京教育大学(現・筑波大学)蹴球部から日本テレビ入社のエピソード、東京オリンピックで触れたグローバルスポーツ、テレビの普及とサッカー、プロチームの発足と育成の為に尽力した高校サッカー選手権などなど、目的を忘れそうになるほど興奮してしまった笑

そして読売クラブ発足、プロ化までの25年、ヴェルディに込められた思い、、、歴史を全てインプットした。


インタビューを終えて、我々は持ってきた資料を見せながら、


「坂田さん、我々はその坂田達が創られたヴェルディのブランドを変えようとしています。今日はその資料をお持ちしたので聞いて頂けますか?」


と、丁重にお伺いした…すると


「いや、聞かない。聞かなくていい!」


一瞬、ヤバいと思った。想定はしていたが。


「ヴェルディが大事にしてきたのはパイオニアスピリットだ。挑戦をするなら君たちの後押しをする。今の君たちが良いと思うのならそうすべきだ。しかも僕の話を聞いてくれて嬉しかった。

なんかあったら坂田も応援すると言ってくれたと言っていいから!」


その言葉を聞いて鳥肌がたったのを覚えている。

変えることに対して、これから大きな障壁がある事は理解してたが、水戸黄門の印籠を手に入れた気分で少し安心したことを今でも鮮明に覚えてる。


あれから6年経った、

ヴェルディのリブランディングはステークホルダーの皆さんの理解を得てスタートし、5年で確実に定着していった。

プロセスの中で何度か「印籠」を使った。

そして「印籠」は結構な効果があった(笑)


83歳になられた坂田さんはJ1昇格を本当に喜んでいた。

そしてこの日、開幕の国立マリノス戦の記念グッズをたくさん見せてくれた。

当時の資料はキレイに整理、保存されていて、

やはり坂田さんの人生にとってもヴェルディは大事な歴史なんだなと感じた。







我々もいつかヴェルディを卒業する日が来るだろうが、

次の世代へバトンタッチする為にもキチンとブランドのメンテナンスを怠らないように運用しなきゃいけない。

そして坂田さん達、先人が築き上げたこのヴェルディの歴史は我々も後世に受け継いでいかなきゃいけない。

そんな使命感を感じた日だった。





坂田さんとは2月25日の開幕戦でお会いした。

31年前のヴェルディのフラッグを振ってる坂田さんは本当に嬉しそうだった。


坂田さん、これからもお元気で!












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